はじめての忘年会

おーい、ここだここだ！　おつかれさん！　まあ座れ！
おつかれ、おつかれ。　荷物こっちに置いて。ビールでいいか？　よし。
おばちゃーん！！　こいつに生中ね！！

……おまえとこうやって飲むのも、はじめてだな。
ウチの部署に来たのは、新人研修が終わってからだから……もう半年か。
早いもんだよなあ。もう慣れたか？

あ～？　オレ、そんなに怖かったか？
ああ……『おまえは使えないんだから、使えるようになれ』 って言ったときか。
ははは……ビックリしたか、スマン、スマン。

でもな、あれはホントのことだぞ。
おまえだけじゃないんだよ、新人のときはみんな使えないんだ。
だって、知らなかっただろ？　業界の慣習、仕事の取り方、帳票の書き方、部内がどうやってまわるのか……。

ん？　『プライドを捨てろ、バカになれ』 って言ったことか？　あれもホントのことだ。
だってな、ゼロからの出発だろ？　なんでも吸収しようっていう意識を持つことと、それをみんなにわかってもらうことが、成長する上で一番大事なことなんだよ。
不器用だったし、１００点はやれないけど、おまえなりにがんばったことを、オレはちゃんと見てたつもりだ。

おー、きたきた！
じゃ、みんな、こいつのためにもう一回乾杯な！
ハイ、カンパーイ！！

……あー、うめえ……。

……いまだから言えるけど、１ヶ月前、おまえを先輩のコイツのアシスタントにつけただろ。
正直そのときな、コイツとケンカしたんだぞ。
オレはな、まだ早いって言ったんだ。

そのとき、コイツ、オレに向かってなんて言ったと思う？
『ホンキでそう思ってるなら、部長の目はフシアナです！　あいつのいいところを、オレが証明してみせます！』 って言ったんだぞ。
コノヤロー！！　と思ったね、オレは。

おまえは知らなかっただろうけどさ……あのときに、そんなバトルがあったワケだよ。
だけど、ちゃんと１ヶ月で、おまえは結果を出したよな。
オレがコイツを信頼して、コイツがおまえを信頼して……それで、みんなが信頼に応えようとして、一生懸命がんばった。それが、結果になったんだよ。きっと。

ん？　いいんだよ、オレとコイツがぶつかるのなんて、おまえが気にすることじゃねえよ。
だって、部内にはいろんな人間がいるんだから、それぞれに見方があって、考え方があって、それがぶつかって職場がまわるワケだよ。
ひとつの考え方だけで仕事をまわせるんだったら、全部システム化しちゃって、ひとりの人間だけでぜんぶ決めればいいんだから。

オレは、それじゃいい仕事できないと思うんだよ。みんなが活きないし、やっててもつまんねえだろ？

ひとつだけ忘れてほしくないのはな、みんながなにに向かってがんばってんのか？　ていうことだ。
その意識が合ってなかったら、個性が悪いほうに出て、みんなのベクトルがバラバラになっちゃうんだよ。
ここに向かってがんばろう！　っていうのがハッキリしてれば、個人個人の考えることがバラバラでもな、前向きにぶつかり合っていく過程で、不思議とちゃんとまとまっていくものなんだよ。

……あとはな、コイツら先輩に酌のひとつでもしとけ。

オレから言われてお酌にまわります、なんてバカなこと言うんじゃないぞ。
みんなおまえの成長を喜んでるし、おまえはコイツらの期待と指導に感謝しないとな。
たかが酒の酌でその思いがお互いに伝わるんなら、安いもんだろ？　そういうのは好きじゃないかもしれないが、人間同士の付き合いなんて、結局こういうことの積み重ねだからな。

まあ、あれだ。
これからおまえも、オレらと目指すところの意識を共有しながら、先輩のいいところを吸収して、悪いところは反面教師として、おまえ自身の哲学を身に着けていってほしいな。
失敗していいんだよ……次につながればいい。失敗を恐れて自分を出さないヤツは、成長もしないから。だから、プライドを捨ててバカになれって言ったんだ。

これからは、思い通りにいかないことも、誰かとぶつかることもあるだろうけどさ……。
そんなもん、あってあたりまえのことなんだ。コイツら先輩は、ちゃんとそれをわかってる。
だから、物怖じしないで、ガンガンやってくれよ。

おまえの個性が仕事に活かされて、はじめておまえがここにいる意味が生まれるんだから。な。

ほれ、飲め飲め！
今夜は思いきり楽しめ！
そんで、また明日からいっしょにがんばろうな！！